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25 Jul 1999

建築は芸術なんかじゃない! ―美術史の視点から

 「建築は芸術か?」という ART MURMUR URL記事に触発され、 日ごろ考えていたことを纏めてみました。
goto 追加補足 建築に対する欧米の常識 / 続編 デュシャンに見る fine art のキーワード

1. 欧米古代史における建築

BIRDIE> 美術史の通史を書いた書物は、殆ど必ず一章が建築に割かれています。

 そのとおりですね。 英語の artificial は日本語で「人工物」。 the state of art は「最先端技術」です。 すなわち art とは人間による技。 (欧米史における)古代においてその極致はバベルの塔やパルテノン神殿のような建築物でありました。 それは粋を集めたさまざまな装飾が施されていました。

2. 絵画、彫刻の誕生

 その後壁画はフレームのついた絵画となってその壁面から飛び出し、 彫刻は構造物から飛び出した。 建築の装飾として従属物であったこれらが独立を果たした。 同時に装飾職人が建築師の支配下から独立したとも言えます。 このことによって絵画や彫刻は建物から切り離されて、他の建築物を飾ることができる。 すなわち美術品の流通が可能になるわけです。 同時にこれらを美術館に纏めて展示することも可能になります。 (ピラミッドの壁を切り取って自国へ持ち帰った猛者もいましたが)・・・(^^;)
 流通について言えばそれまで建築師の下請けであった絵師や彫刻師が直接顧客から発注を受けることができる。 これが建築師の支配からの独立というわけです。
 時代で言うとレオナルド・ダ・ビンチあたりになりましょうか。(ダ・ビンチは建築師でもありましたが) これらの絵師や彫刻師は顧客の注文に応じて制作します。 エル・グレコ工房は人気の『受胎告知』を多くの弟子によって描いていました。

3. 芸術家の誕生

 これに満足しない先進の人々はやがて顧客の要望によらず自分の表現を作品に取り入れます。 レンブラントの『夜警』にまつわるスキャンダルがその象徴的出来事と言われています。 (これ以前にもベラスケスや晩年のゴヤなどにスキャンダルにはならぬものの作家独自の視点が現れます) 美術作家・・・画家、彫刻家の誕生です。

4. ヨーロッパにおける fine art の誕生

 ここへ来て英語でいう fine artapplied artなどからの区別が生じます。 すなわちそのほかに実用性の無い純粋芸術かつ量産されないものが fine artとして他の工芸や応用芸術と区別されます。 この概念は18世紀ヨーロッパにおいてその定着を見るとされています。

5. 日本における「美術」、「芸術」の誕生

 美術ないしは芸術はこの欧米の fine art(英語。仏語で beaux-arts、独語では shone kunst)の明治における日本語訳です。 fine art は詩や音楽も含めるので、その訳語である「美術」がもっぱらそのうちの visual arts(視覚芸術)を指すようになって 再度本来の詩や音楽も含めた fine art の訳語として「芸術」が登場します。
 近年「アート」とカタカナを使うのはこれらの限定された術語の範囲を広げるために発明されたものでしょう。 近年の視覚芸術が絵や彫刻という範疇に収まらないことは明白ですが、 かといって「アート」という新語を使わねばならないかというと私はそうは思いません。 顧客の要望によらず作家の個性による表現を行う視覚芸術はメディアこそ異なってもなお「美術」と呼んで良いのではないでしょうか。 「アート」とカタカナを使うのは工芸や大衆芸術、サブカルチャも含める場合と理解します。

6. 建築は芸術か?

 さて、本題である「建築は芸術か?」 近代の意味でいう作家の自立とその作品という観点からは、建築はそれにあたらないことがお分かり頂けたと思います。 建築はその建物が使用されるときの基本機能が優先的に考慮されねばならず、顧客の要望も絶対だからです。 「アートであるか?」というともちろんのその中には含まれます。 (4)で出てきた工芸に近いかもれません。
 外観の優美を絶対に置くならば建築ではなくモニュメントと呼ぶべきものです。 ニューヨークの『自由の女神』やパリの凱旋門やエッフェル塔がそれにあたりますね。 それを混同するような使いにくい建物はいかに視覚的に優れていようとも、私は気に入りません。 美術館の建物がやたら自己主張したり、建築屋さんが芸術家ぶることも嫌いです。

25-26 Jul 1999
M.Shino, The Bar Master
Shino's Bar - Contemporary Art and Spirits

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