Shino's Bar

【赤坂・Shino's Barの夜は更けて】

田尾 弘一

  「根の回復として用意された12の環境」の楽屋話など紹介しましょう。そうそう、ちゃんと許可を取ってないので、とりあえず作家名はイニシャルにしておくことにしよう(笑)

話は同展覧会と対になる去年のオランダでのNOWHEREまで遡る。

  参加作家にA+Sさんという方がいるのだが、彼らはその作品だけでなく、酒好きであることでも有名だそうだ。遠きオランダの地に渡ったとしても、それは決して変わらない。
  しかし、問題は飲み屋だ。酒なしにいい作品など出来るはずがない(と思っているかどうかは定かではないが)A+SのSさん、サポートのためにオランダまできてくれた、シノさんと呼ばれる漫画家の鈴木義司似の好人物とともに、根城に酒を集めてテーブルに並べ、毎夜の酒宴と相成った。
  しかしながら、酒は涙かため息か万国共通語か、そのささやかな飲み屋は他の参加作家も知るところとなり、夜の日蘭交流は急展開、一つのテーブルが二つになり、L字になり、カウンターの様相を呈したとき、誰からともなく「シノバー」なる名が付けられるにいたる。

そして舞台は半年後の日本に移る。

  ある日、シノさんの平穏な日常を打ち破る一本の電話がかかってくる。誰がかけたものかは失念してしまったけれど。「今度日本・オランダ交流展のシンポジウムがあるんだけど、シノバーを開けてくれない?」
  このときシノさんの胸に去来したものはいったい何であったろう。それは懐かしき追憶か、それとも苦い悔恨か。とまれ、意気に感じたシノさんは、朝一番で関空を飛び立ち、東京へと降り立ったのだ。シノバーを甦らせるために!

  かつては小学校の校長室だった休憩室、その片隅に置かれたカウンター代わりの小さな木の机を前に赤い蝶ネクタイをして立つシノさん。カウンターにはオランダのシノバーを飾ったプレートが置かれ、傍らにはSさんに代わって黒いドレスを着た美しき女性従業員もいる。舞台は整った。久しぶりのせいか、さすがのシノさんの表情にも軽い緊張が漂う。

 シンポジウムも終わりに近づく頃、一人のスタッフがやってきて、シノさんに告げる。「そろそろ皆さんこちらに流れてきますので開店の準備をお願いします」
  さあ、ここからはシノさんの世界だ!
  続々と流れてくる関係者、カウンターの小皿には次々にお金が置かれ、酒が矢継ぎ早に渡されていく。それぞれが好きな酒を手に談笑する中、いつしか部屋の明かりは消され、机の上でキャンドルがともる。3つのテーブルにつまみを振る舞い、酒の注文を日本語と英語で取りながら部屋を回遊するシノさん。

  このとき私はSさんの近くでウーロン茶を飲んでいた。そして、Sさんからシノさんの驚くべき素性をを知らされたわけである。「シノさんは、オランダでぼくたちの制作のサポートをしてくれた、ある分野の権威なんだよ」
  え!? 赤い蝶ネクタイまでしてノリノリでバーを仕切ってるこの人、ただのスタッフじゃなかったの?!
  そしてぼくは、オランダでのいきさつ、今回のいきさつを聞くこととなる。涙と笑いと友情にあふれる、シノバーの夜は、かくて更けていく。

いつしか陽気な音楽が流れ、いく人かの男女が緩やかに踊る。

オランダから来た気のいい青年は、シノさんから蝶ネクタイを受け取ってカウンターに立ち、怪しげなカクテルを作る。 酔いに飲まれた人たちはもはや酒代を払うこともない。
 A+SのAさんはハンディカムを手にシノバーの姿を記録し、カウンターの前では、 Sさんがデザインとアートの違いを巡って熱く語っている。女性従業員も座り込み、 それを熱心に聞いている。持ち場を離れたシノさんは、座るでもなく、 「シノバーの雰囲気が壊れていく〜」と、悲喜こもごもの表情で、 客のつまみや酒に気を配りながら明るく語る。ああ、シノバーの夜は更けていく。 にぎやかで楽しい夜が。

  シノさん、ベリナイスな夜をありがとう!

田尾 弘一

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(1996年6月 PC-VAN ARTNET 掲載記事より著者の許可を得て転載)

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